第5回 3つの選択肢

2016年11月2日


 




こんにちは、作曲家の望月将宏(
@receptorjp )です。

皆さんは「あのシンセのあの音」というと、何を思い浮かべますか?
そして「その音を使ったアレンジをして欲しい、数時間以内に方向性の見えるデモをよろしく〜」と言われたら…?

今回はサンプリングについての話、それも特にApple社の Auto Samplerを用いてハードシンセの音色をソフトサンプラーにサンプリングするという話です。

最初に書いたことと矛盾してしまいますが、「あのシンセのあの音を使ったアレンジ」を欲しいと言ってくる方は、実際にはそう多くありません。クライアントの方が、シンセの機種名とそのプリセット音色名を熟知している必要はありませんから。

しかし、「あのジャンルっぽい音」「あの時代っぽい音」「あの曲みたいな音」という形で、暗に「あのシンセのあの音」を要求されることは多々あります。もちろん、その空気感を出すための代替案を用意する、というのも面白いのですが、 定番音色を即座にほぼそのまま鳴らせるようにしておくことも、やはり選択肢として時には必要です。 

市販のソフトシンセやライブラリ内の定番音色


最新の定番音色だけならばDAW付属のソフトシンセやNative Instruments社のKompleteに入っているソフトシンセだけでもある程度対応できます。しかし、往年のハードシンセの定番音色がたくさん欲しいとなると、それに特化した音色ライブラリが必要になってきます。

昔から様々なディベロッパーさんが、ハードシンセをサンプリングしたライブラリを出していますが、最近ではUVI社のSynth Anthology 2外部サイトへ)などが有名ですね。素晴らしい音色が多いので、僕もこの手のものは使っています。

市販のソフトシンセやライブラリを使う。これが定番音色の呼び出し方の一つ目です。


じゃあそれを使えば良いということで話は終わり?


う〜ん、それがそうもいかないんですよ。
優れたライブラリはたくさんあるものの、どこか違うと思うことも多々あるんです。恐らく音が悪いわけではなく、ライブラリの作り手側の意図と、僕のその定番音色への思い入れ、その音色のおいしいところがどこなのか、という解釈のようなものとが必ずしも一致するとは限らないということなのでしょう。
D-50のFantasia、M1のPiano、JDのPiano…、確かにそうなんだけど、どこかそうじゃない、みたいな?


Auto Samplerを用いて自分でサンプリングした定番音色


となると、自分で自分の思うようにサンプリングするのが一番です。それが、前回のコラム(前回コラム参照)で書いたこの部分のことです。
 

ソフトシンセのトラックにexs24mkIIを立ち上げてあるのは、短時間で仮オケを作るときに動作が軽くて使いやすいからです。ジャンルを問わずに使えるよう、ハードシンセの定番音色を1000音色以上サンプリングしてすぐに使えるようにしてあるから、というのもその理由です。


ただ、これを手作業でやるとどうしても膨大な手間がかかってしまいます。

そこで Apple社のMain Stage 外部サイトへ)に含まれている Auto Samplerの登場です。かつてRedmatica社から出ていたソフトで、今はApple社のソフトの一部として出ているAuto Samplterですが、簡単に言えば 「MIDI入出力の設定とAudio入出力の設定さえすれば、各鍵盤の音を鳴らしてサンプリングし、鍵盤上にマッピングするという作業を全自動で行えるソフト」です。

使い方はこんな感じです(説明画像はクリックすると拡大します)。

1.Main Stageを起動し、All Concerts→Keyboard Minimalistと選択してChooseを押します(他でも良いのですが、どうせ余計なチャンネルストリップは使わないので、できるだけシンプルなものを選択しました)。


2.左上のPatch List内のClassic Electric Pianoを選択し、Deleteキーを押します(これも余計なチャンネルストリップを消すためです)。



3.Patch Listの「+」ボタンを押します(空のPatchを作ります)。



4.今度は右上に行き、Channel Strips内の「+」を押します(チャンネルストリップを新規作成します)。



5.以下のような画面が出るので、「External Instrument」を選択し、他は使用しているAudio I/F、MIDI I/F、ハードシンセにあわせて設定します。



6.作成されたハードシンセ用のチャンネルストリップで、「Audio FX→Main Stage→Utility→Auto Sampler→Stereo」とたどりStereoを選択します。



7.Auto Samplerが起動しました。サンプリングしたい音域、何鍵置きにサンプリングするか、サンプリングする秒数、ベロシティーレイヤーの数などを指定し、右下の「Sample」を押せばサンプリング開始です。


このサンプリングした音色はLogicのexs形式で保存されているので、そのままLogicで使用できます。

どうでしょう? とにかく簡単ですよね?

「自分の思うようにサンプリング」とは言っても、それほど凝ったことはしません。いつも自分が聞いている、自分の知っている音が欲しいだけなので、普段通りの環境で普通に鳴らしてサンプリングします。Neveの味をつけつつ録りたい、よりクリアな高域が欲しいからADコンバータを普段とは違うものに、など、こだわることもありますけどね。

自分でサンプリングした音を使う 。これが 定番音色の呼び出し方の二つ目 です。

いつサンプリングするの?


ライブラリのディベロッパーさんならともかく、「サンプリングにものすごく時間をかけていたら、曲を作れなかった」では、本末転倒という人も多いと思います(サンプリングそのものも楽しいものですけどね)。
僕の場合は、定番音色をハードシンセで使った後に少しずつ録りためています。1音色だけ、2音色だけ、とか。それが積み重なって、いつの間にが1000音色以上。まさに塵も積もれば山となる、です。

これらの音色と他の工夫と合わせると、短時間でクオリティーの高いオケを作成することができます。以前、ネット経由で歌モノのメロディーを頂いてから、一時間弱でワンコーラス分の仮オケを作成し、クライアントの方に方向性の確認をお願いしたことがありましたが、すごく驚いてくださったのを覚えています。


優れた表現力を持つハードシンセ実機の定番音色


ただ、時間のあるアレンジの時は、サンプリングした音があっても実機で改めて鳴らすことが多くなっています。

ベロシティーによる自然で細かい変化、コントローラーによる音色変化、特にその機種独自の機能を生かした音色変化など、やはりしっかり作り込まれたハードシンセ実機の音色の方が、サンプリングしただけの音色より、表現力豊かな演奏に向いていることが多いという印象です。

ハードシンセ実機の音を使う。これが定番音色の呼び出し方の三つ目です。


結局どの方法が一番いいの?


大切なのは選択肢があること
だと思っています。

まず市販のライブラリで良い音はたくさん鳴らせるので、それを即座に使うことができる。

次に自分で実機からサンプリングした音は、自分のイメージした音により近いので、それを即座に使うこともできる。

そして、ハードシンセ実機の音は表現力において優れている。

以前のコラム(以前のコラムへ)で書いたように、Apollo16のおかげでハードシンセもソフトシンセに近い感覚で使うことができるようになりました。それでも、同時に使用できるパート数の制約があったり、オフラインバウンスに対応できなかったり、とハードシンセには制約が残ります。

また、特にドラムやパーカッションのようなワンショット系の音色などは、実機よりもソフトサンプラー上の方が、素早く細かくエディットできて良かったりもします。でもやっぱり実機には実機の良さもあります。

結局のところ、「選択肢は多いほうが良い」「適材適所」ではないでしょうか。 

望月将宏

作曲家・編曲家・キーボード奏者
J-POP・アニメ・アイドル・演歌など歌もの楽曲の制作から、展示会用音楽やゲーム用音楽などインスト楽曲の制作まで幅広く行っている。また、シンセサイザーでの音作りが得意であることを活かし、シンセサイザーのプリセット制作やサンプリング音源制作にも参加する。