第8回 コントロール・ユー?その2

2016年11月26日


 




こんにちは、作曲家の望月将宏(@receptorjp)です。

今回も前回コラム( 前回のコラムへ)に引き続き、音楽制作で使うコントローラーの話です。
前回コラムでは、演奏時に使用するコントローラーについて、シンセ内部のパラメーターを演奏しながらリアルタイムに操作するためのもの、と定義し、あれこれ語りました。
今回は、「 ミックス時に使用するコントローラー」についてです。


ミックス時に使用するコントローラーとは?


ミックス時に使用するのは、主にDAWのミキサー画面やエフェクトプラグインの画面を操作するためのもの、です。ミキサー画面の音量フェーダー・Pan・センド量を操作したり、プラグインEQやコンプの操作をしたりするためのものです。
シンセ内部のパラメーターを操作するものではないことと、既に演奏「したもの」を操作するものである、ことが前回の演奏時のコントローラーとの違いでしょう。


マウス操作だけではダメなの?導入のメリットは?


これらの操作は、基本的にマウス操作だけでも行うことができます。実際、マウスでも操作しています。
ただ、ハードウェアのコンソールを操作するように、DAW内部のミキサーの各パラメーターに直接対応するスライダーやノブを操作できた方が、複数のパラメーターを同時に操作できます。また、直感的に操作することも可能です。

ん?…
この手の話題で「直感的」という言葉をよく聞きますが、一体何のことでしょうか…?
以下のような例があります。
 

  • しっかり見て確認せずとも手触りなどで「ノブの12時くらいの位置なので半分くらい」と操作中のパラメーターのおおよその値がわかること
  • 「EQのHFの周波数をいじったので、その隣のノブがHFのゲインのはず」と、しっかりと見なくても適当に手を伸ばすだけで操作できること


簡単に言えば、「手触りでおおよその値がわかったり、他のノブとの位置関係操作できること(せいぜいチラッと見る程度で)」くらいの意味で良いのではないでしょうか。

多少脱線しましたが、導入のメリットにはオートメーションを素早く描ける、というものがあります。
ミックス中にはオートメーションを大量に描きます。マウス操作だけで描くのも悪くはないのですが、限られた制作時間の中では、マウスだけの場合、多くのパートがオートメーションなし、一部のパートだけ動かすということになりがちではないでしょうか。

コントローラーを使えば、1曲の1パート分のオートメーションを、曲を1回再生する分の時間だけで描くことが出来る(やり直すことはあるとしても)わけですから、より多くのパートを動的に変化させることが可能になります。

また、曲を聞きながら曲に合わせて変化を描くには、コントローラーがあった方が良い場合も多いでしょう。
一瞬ディレイを増やしたい、という時、曲を聞きながらその時の気分で増減させる、というのがその例です。音量フェーダーも、聞きながら手で操作したものを記録してくれた方が良いことがあります。

大切なのは選択肢があるということです(以前も他のコラムで書いた気が…)。マウスとコントローラーの両方を使えることで、制作の幅が広がると僕は考えています。


OASYS76をDAWのコントローラとして使用


僕は音楽制作のマスターキーボードにKORG社のOASYS76を使用しています。マスターキーボードというのは、ソフトシンセやラック音源の音を演奏するときに使うキーボードのことですね。

僕の場合、制作環境の中心、メインDAWである Logicの画面の目の前に、76鍵のマスターキーボードを置くことは、絶対条件です。マスターキーボードを49鍵などの小型キーボードにするのはダメ、画面の目の前とは別の場所に置くのもダメです(マスターキーボード以外のシンセは、他の場所に置いて使っていますが)。色々試したものの僕には合いませんでした。
OASYS76やマスターキーボードについても語り出すと長くなるので、それはまた別の機会にしましょう。

いずれにしても、76鍵のマスターキーボードは制作の中心に置きたいのです。となると、そこに、ミキサーの形をした大きなフィジカルコントローラーを置くことはできません。マスターキーボードの上に置ける程度の小型のコントローラー、例えばPresonus社のFaderPort( 外部サイトへ)などはしっかりとした音量フェーダーがついていて素晴らしく魅力的ですが、EQやセンド量の調整も素早く行うという用途には向きません。
そこで、マスターキーボードでDAW内部のミキサーもコントロールすることにしました。

OASYS76の画面の左側には 9本のスライダーと8個のノブと1個のジョイスティック、そして16個のボタンがついています。そして、Externalという機能を使えば、これらに任意のコントロールチェンジナンバーを割り当てて、コントロールサーフェスとして使用することが可能です。

OASYSの設定 画面はこんな感じです


余談ですがOASYSにはこんなオンラインヘルプがついていて、ボタン一つで本体画面にヘルプを表示できます。ここだけどこかレトロです。


後継機種のKORG KRONOS(外部サイトへ)でも同じことができますし、他のシンセでも似たようなことを出来る機種はあります。でも、僕にとってスライダー・ノブ・ジョイスティック・ボタンの数・大きさ・配置が一番しっくり来たのはOASYS76でした。

このスライダーなどを用いてDAWをコントロールしています。

スライダーとノブとジョイスティックで操作できる内容をまとめると、 選択中の1チャンネル分の主要なパラメーターが、全てではないもののおおよそ集まっているという感じです。
  • ボリュームフェーダー
  • Send1〜7(リバーブ、コーラス、ディレイなど)
  • 定位変化(PanとDirection Mixer)
  • 4バンド分のEQの中心周波数とゲイン


EQは、僕が普段使うものであればほぼどれでも、4バンド分同じように操作できるようになっています。一番右のノブならHFの中心周波数、その左がHFのゲイン、更に左はHMFの中心周波数…といった具合です。
1チャンネル分のパラメーターをたくさん並べるか、複数チャンネル分の限定されたパラメーター(音量フェーダー・PANだけ)を並べるか、で迷ったのですが、EQとSendをコントロールしたかったので、上のようにしました。
EQは各パートの音作りで必須で、Sendはオートメーションを描く際に頻繁に使用するからです。

ボタンには、以下のものを割り当ててあります。
 

  • 選択中のトラックのミュート・ソロ
  • 選択トラックの移動
  • トランスポート(録音・再生・停止・曲頭への移動)
  • マーカーの設定・前後移動
  • オートメーションのRead/Write
  • Logicの画面の呼び出し(ミキサー、イベントリスト、ピアノロール、オーディオエディット、スコア)


この方法を導入してから、音を決めるのが圧倒的に早くなり、オートメーションによる変化を同じ時間でもより細かく指定できるようになり、何より楽しさが倍増しました。

ただ、欠点は一応あります。ムービングフェーダーではないこと、分解能が専用コントローラーよりは低いことなどです。ただ、すべてを同時に満たすことはなかなか難しいので当面はこのままで、でも常によりよい方法を考えて試していきたいと考えています。


意外なメリット


メリット・デメリットの大半は、最初からわかっていたこと、なのですが、実際に使っているうちに意外なメリットも出てきました。
普段Logicを使っていない人でも、すぐに操作できるということです。

今回の話は、演奏時のコントローラーの話と分けて進めましたが、実際には、フェーダー・Pan・センド量くらいは、録音・演奏しながらも動かせた方が良い、あるいは動かせなければ困るでしょう。これはミックスのためではなく、その変化を記録するためでもなく、演奏時にモニターする音を調整するためです。

例えば、録音のカウント(クリック)が鳴って演奏し始めてから、自分の演奏しているパートの音が小さくて演奏しにくい、あるいは大きくて他のパートに合わせにくい、と思った時、ミキサーに立ち上がっている音の大きさを変える必要があります。

僕が演奏する時、僕以外の人がLogicを操作してくれることもありますが、スライダーやノブなどの手前に機能を書いたテープを貼っておいたところ、普段Logicを使っていない人でもすぐに最小限の操作をすることができました

そういえば、あるボーカリストさんのレコーディングをさせて頂いた時、その方が「このキーボードにはキーボードじゃない何かがついてる!」と笑っていました。会話の潤滑剤としても役に立ってくれています。

いずれにしてもなかなか好評みたいです。一人で音楽を作ることも可能な時代ですが、共同作業しやすいというのはいつの時代も大切なことですね。

ではでは。

望月将宏

作曲家・編曲家・キーボード奏者
J-POP・アニメ・アイドル・演歌など歌もの楽曲の制作から、展示会用音楽やゲーム用音楽などインスト楽曲の制作まで幅広く行っている。また、シンセサイザーでの音作りが得意であることを活かし、シンセサイザーのプリセット制作やサンプリング音源制作にも参加する。